=君と二人でとおりゃんせ=

旅立ちの時

2.







 半兵衛とて自覚がないわけではない。
 どんな事にも冷静に対応できると思っていても秀吉の事となると時折キレる。それ以上に大事なものもなかったし、半兵衛にとっては全てなのだ。

 なのにこの男にいつだって振り回され気味なのはどういうことなのか。
 少なからず影響を受けるのは秀吉も同じことなのだが、数多の戦いを潜り抜け実力、人格共に大物となった彼にはすでに問題とはならなかった。
 だから余計にため息がつく。
「もういいよ。僕が別の部屋に行けばいい話だった」
 どうせ秀吉に用なんだろ。
 半兵衛が確認すると、ああ、と慶次が答える。
「秀吉、さっき聞いたときは何も言わなかったじゃないか」
 先ほどまで打ち合わせ等々行っていた当の相手に尋ねると、親友からの返答にがくりと肩を落としてしまう。
「うむ。そうなのだが、こやつが来たときの半兵衛の反応はやはり面白いのでな。ついつい」
 え、そうなのか、と首をひねる慶次を横目に半兵衛は本気で泣きたくなった。


 出会いからして最悪だった為もう二度と会いたくないと思っていたのに、どういうわけか慶次との縁だけはしつこいくらいに訪れた。
 そもそも秀吉とねねが大好きだった慶次は当然のように家に遊びに来る。そこに居候に近い形で住んでいたのだから、彼と再会してしまうのは当然の事なのだ。部屋から出なければ良いだろう、という半兵衛の楽観的憶測も裏切り、半兵衛いるか?と自ら顔を出しに来るのだからどうしようもない。
(どうして僕に構うんだろう――)
 いつもその言葉が頭の中をよぎり、それから「何の用?」と尋ねる。
 大抵返って来る返事は、近くに川があるから遊びに行こうとか、街で祭りをしているから一緒にどうかとか、ほとんどが遊びに行くことばかりで全く持って半兵衛の興味を引くものはなかった。だが断っても断ってもしつこいくらいに誘うものだから、結局は相手の意を叶えて腰を上げてしまうのである。

 それはねねが死んでしまう以前の話で、もう今後このようなことは二度と自分の周りで起こらないと思っていたのに。
「僕の考えが、やはり甘かったんだろうか」
 あんなに散々ねねのことで人を罵倒しておきながら、今また勝手知ったる風情で現れるなんて。
 天下統一を果たし、世の流れも一時の平安を手にしたかと思ったとたんに自分に降りかかった”厄災”と言わずしてなんと言おう。

 いや、そこまで言うのも可哀想か。

 一瞬慶次への情も動き、だがいやいやと即座に否定した。
 そんなものは認めたくない。
 慶次に配慮する心など今の自分には必要ないのだから。

 必要ない。

 だって彼の中には、ずっとあの人が住み続けている。

 そう、だから――今更だ。

 自室に戻った半兵衛だったが要らぬ来客の所為で集中力が途切れてしまい、広げていた兵法書に目を通す事もままならず、結局途中で閉じてしまった。


「そんで俺に話ってのはなんだい?」
 社交辞令など当然この男にあるわけがない。
 秀吉もそれはよくよく分かっていたので別段気に留める様子もなく、さらりと用件を口にした。
「うむ、実はな……」
 ここだけの話と告げられた内容は、正直慶次を驚かせるに十分なものだった。


 秘めた想いはいずこにおわすか――。





→3


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1をやっていないので、ねねという存在がどのような立場にあったのかよく分かってません。1に出ていたのかどうかも知らないのですが。なのでかなり捏造、妄想が入ります。
慶次と秀吉と半兵衛の三人って、実はねねの存在で繋がってるんじゃないかと思うのです。彼らが仲良くしているところがかなり夢というか、願望なんですけど、なんだかんだで仲が良さそうだと思うのは私だけなのかしら☆