=約束=








「おい、ダメツナ」
 勢い良く開けられたドアの向こう側を一瞥すると、黒のドレスに身を包む”少女”がキッとこちらを睨んでいるではないか。胸までかかる黒髪も綱吉の故郷を彷彿とさせるのだが、雰囲気的にそれどころではなさそうだ。明らかに自分が睨まれているのだが、思い当たる事がなくて綱吉は思わずため息を漏らした。
「ねえ、レバンネ。入ってきて早々にそれはないんじゃ……」
「いつになったら今日の仕事は終わるんだ?」
 部屋を横切って近づいてきた少女は、ダン、と綱吉の執務机に両手をついて、問い詰める勢いで聞いてきた。
「いつって、今日はびっちり夜まで」
「俺との約束は?」
 はい? 約束?
 女の子なのに”俺”なんて使うもんじゃないよ、とはもう今更だ。
 問いに関してはそれ以上彼女から言うつもりは無いようで、綱吉も懸命に直近の記憶を手繰り寄せるのだが、なんと言っても脳内金庫から引き出す為の情報が少なすぎる。
「ええと……約束って言うのは……」
 どうしても思い出せない。
 それが少女にも分かったようで、ぐっと下唇を噛み締める。
「もういい。分かった。おまえはずっとそこに噛り付いてろ」
 俺だけで行って来る、と言い放って少女は部屋を出て行った。
 なんだろう。なんか納得がいかない。
「俺、何したっけ……」
 行くってどこへ、と思い当たる場所を思い浮かべていたら側近からの内線が綱吉を呼ぶ。
「どうしたの、隼人」
『十代目! すんません! 俺のミスです!』
「えーっと、まったまった、何がミスだって?」
 先にそこを話して。滂沱の涙であろう二十年来の右腕をとにかく宥めて話の続きを促した。
 聞いて終わるや否や「すぐに車を回して!」と右腕に告げ、綱吉は部屋を飛び出した。


「リボーン!!」
 屋敷の一室に設けられた彼女の部屋に駆け込むと、ガツンと額に衝撃が走った。
「いったーーっ!!」
「レディの部屋入るのにノックもしねーのか、このダメツナが!」
「・・・スミマセン」
 投げつけられたのはヒールのとがったパンプスの片方。もう片方は少女が手にしている。おそらくちょうどそれを履こうとしていたのだ。
「そんで?」
「あ」
「なんのようだよ、ドン・ボンゴレ?」
 あえて綱吉を”ドン”と呼ぶ。
 お忙しい身分の人間には自分との些細な約束なんてどうでもいいんだろ。
 そう言外に訴えられて、綱吉は胸がぎゅっと苦しくなった。
 これは完全に怒ってるなぁ。そうだよな・・・。
「ごめんね、リボーン」
「レバンネだろ」
「・・・ごめんね、レバンネ。ちゃんと約束覚えてるよ。ごめん」
 ねえ、だから一緒に行こう?
 自分はどれだけ情けない顔を彼女に見せたのだろう。
 じっとこちらを見る少女の険しい顔が、呆れたようにフッと緩んだ。
 覚えているならそれでいい。
 少女はパンプスを履き、流した黒髪を整えて、脇のソファにかけてあった鍔広帽子をかぶると真っ直ぐ綱吉を向き合う。
「ちゃんとおまえがエスコートしてくれるんだろ?」
 そう言って差し出された手を綱吉は手に取り、恭しく甲にキスを贈った。




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色気も何もないけど、二人が書きたかったので。
女版りぽたん。多分今見た目10歳くらいかな。
戸籍上彼女の名前は『レバンネ』です。rebornをちょっといじっただけなんですけど☆
どんな約束なのかは決めてるけど、それ書くと長すぎるので省略。
読む人がいたら書きます。