=海へ行こう=








 突然彼女が海に行きたいと言い出したのはまあよしとしよう。
 先々の事を計算づくしているように見えて、時折気分屋なことを言う。
 しかし、そうは言っても今は簡単に動ける身でもない。
「レバンネ……どうしてもこの夏に行かないといけないの?」
 深くため息をついて綱吉は尋ねると、シチリアの海で泳ぎたいと言って聞かない。
「……なんで」
「あの青い海を見ないと夏が来た気がしないんだ」
 うそつけ。日本に来てる間は海なんて……と思いながら、そういやマフィアランドに連れて行かれたなとかなり古い記憶を手繰り寄せる。
 それまで処理していた紙の山を、ちょっとだけ、と脇に押しやり机上の電話の内線を鳴らしてお茶の用意をと告げた。
「もう休憩か。随分と軟弱になったな、ボンゴレ10代目」
「俺もう40代入ってるんだけど」
「なに言ってやがる、ダメツナ。今時40代なんてどれだけ若いと思ってやがるんだ」
 そうですね、と力なく頷く綱吉である。
 それで、と話を戻す。
「ねえ、やっぱり海行きたいの?」
「今年は特に暑い」
「それでか……」
 彼女の我侭は今に始まったことじゃないし、どうせ自分が言われた事を実行しなかった事なんてほとんどない。結局は行く事になるのだろうが――。
「ちゃんとシャマルを連れて行って、看護師さんもつけるんだよ」
「面倒だな」
「あのねぇ、リボーン今の自分の状況分かってる?」
「このお腹の事か?」
「うん、そう」

 レバンネは現在妊娠8ヶ月。
 すでにおなかも大きくなって、どこからどう見てももうすぐ『母』となる人なのだ。

 あまりにも感慨深いというか、良くぞここまで来たものだと遠く過去を振り返る。
「なに現実逃避してんだ、ダメツナ」
「それも全然変わらないね」
「お前はいつまで経ってもダメツナだからな」
 そうですそうです、頷きながら執務机から離れてレバンネの横に座る。ちょうどその時使用人が「失礼します」とノックしてきた。
 運びこまれたカプチーノに口をつけながら、二人は海水浴から話を旅行に肥大させてあれやこれやと計画を練りだす。
 ほぼ固まってきた理想プランの書き込まれた紙面を眺めて、二人は顔を見合わせるとレバンネはにやりと、そして綱吉は困ったように笑みをこぼした。
 恐らくこれに右腕の彼が振り回されるであろうことは間違いない。
 仕方ないよね、と心の中で合掌した。




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すみません、海なんかどうでも良かったんですけど、たんに『お母さん』なリボたんを出したかっただけなんです☆ 当然相手はつなくんですよ!
ところで妊娠8ヶ月で夏に海なんか行ってたらやばいですか?(汗)