=体温=








 いつだったか、綱吉に言われた。
『アルコバレーノが赤ん坊であることに、きっと意味があるんだよ』
 その時から自分を見る目が少し変わったような気がする。

 呪いも解けず、そのままのほうが良かったかとたまに思うのはこんな時。
「どうしたの、リボーン」
 いや、と稀代のヒットマンは首を横に振る。
 最近は大した抗争もなく、綱吉は朝から山のように詰まれた書類に追われ、守護者達も仕事上必要な決済を求めて執務室を訪れるとき以外は入ってこない。今日は一日リボーンと綱吉でほぼ二人きりの状態と言ってよかった。

 たまにどうしようもなく綱吉に構いたくなる時がある。もしくは構ってほしくなるか。
 どちらにしても今の呪いが解け、本来の姿に戻った自分では実行に移すのが難しい。
 こういう時赤ん坊ならいくらでもちょっかいを出す方法があるのに、なんとも惜しい事だ。
「なにかいらない事考えてたでしょ」
「御名答」
 ボンゴレの超直感が綱吉に何か伝えたらしい。リボーンは素直に答えてやる。
「昔の赤ん坊のままならお前に悪戯ができたのにと思ってな」
「なにそれ。冗談じゃないよ。リボーンの悪戯は悪戯じゃすまないんだから、やめてよね」
「だから思っただけだろ」
「お前はいつだって有言実行じゃないか」
「人間は変わっていくもんだろ」
「お前は変わるなよ」
 はい? と首をかしげてリボーンは綱吉を見た。
 十代目ドン・ボンゴレはずっと書面に目を通している。
「綱吉」
「なに」
「今の発言に何か意味があるのか?」
 今度こそ綱吉は面を上げた。
 そこにあるのはマフィアのボスの表情だ。
「別に」
「嘘付け」
「…………はあ〜」
 リボーンには敵わないなぁ、などと呟きながらずっと前かがみだった身体を、ようやく椅子の背凭れに預ける。
 ちょいちょいと手招きする仕草をリボーンに向けた。
 手入れしていた銃を愛用ケースに戻し、腰を上げると綱吉に近づく。
「なんだ」
「ちょっと休憩」
 言うなり綱吉はリボーンの身体をぐいと引き寄せ、自分の膝上に座らせた。
「おいこらダメツナ!」
「苦情は受け付けません」
 ちょっとだけこのままね。
 にっこり笑ってぎゅっとリボーンの身体を抱きしめた。
 リボーンはというと上半身をひねる形で綱吉と向き合ってるから正直姿勢が辛い。
 それでも言い出したら聞かなくなったのが綱吉だから。
(しょうがねぇなぁ)
 手持ち無沙汰になっていた両手を綱吉の背中に回す。

 あったかいね。

 いつかの彼が言った同じ言葉をリボーンは再び耳元で聞き、そっと目を閉じるのだった。


『リボーンはあったかいね』
『……なんの話だ』
『え、ほら、子供の体温って大人より高いでしょ』
『……おまえ、俺とおまえとどれだけ違うと思ってんだ』
『なんで〜。だって少なくとも13年は離れてるよ。リボーンからしたら俺なんか全然大人じゃん』
『いっぺんマジで死んで来い』
『いや、たんまたんま!!』
『もういいから下ろせ、ダメツナ』
『だって今日は大雪だよ。いつも歩いてる壁の上も雪で一杯なんだから、この方が早いよ』
『だからってな』
『いいじゃん、たまにはだっこさせてよ』

 そういう綱吉の笑った表情が、本当に嬉しそうだったから、リボーンはそれ以上何も言わなかった。
 十年以上経った今も、変わらぬ笑顔が目の前にある。

「大好きだよ、リボーン」




**********

箱芭的リボツナの原点。