=熱の夜の夢=








 はっとして目が覚める。
 全身汗でぐっしょりになってしまっていて気持ちが悪い。
 腕を動かす事もイヤだと思うほどにぬれた身体を起こすと今度は夜半の空気に体が冷えた。そして指の先一本まで体が重い。

(ああー、そういや熱出したんだったな)
”以前”の自分では考えられない現象に、レバンネは顔をしかめた。ベッドから這い出しサイドテーブルのスタンドライトをつけると部屋に備え付けのシャワールームへと向かった。
 2、3歩足を進めて「リボーン?」と声をかけられたことに心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。
 明かりの届かぬところに人の気配があった。ライトを持ち上げるとそこには良く見知った男がソファでシーツに包まり横になっている。
「ツナ!? なにしてんだお前……っ」
 なにって看病だよ。
 少々呂律の怪しい返答が返って来て、おそらくはまだ夢の中の世界にいると思われた。
「ああ、悪かったな。もう平気だから、お前は自分の部屋に帰れ」
 できるだけ優しく控えめな声で促すが、綱吉はいやだとそれだけははっきり意思表示を示した。
「おいツナ」
「えーっと、ああ、シャワー浴びようとしたんだね」
 今度こそ身体を起こした綱吉はレバンネの向かおうとしていた先を確認して納得したように頷いた。
「大丈夫だよ。お願いしてあるから連絡したらシーツを取り替えてくれる。着替えは用意してあるからね」
「お前ずっとここにいたのか」
「うん」
「仕事はどうした」
「それはちゃんと片付けたよ。ここに来たのは終わってから」
「食事は?」
「ここで取った」
「それでオリーブの匂いがするのか……」
「あれ、気になる? ごめんね」
 薄暗い灯りで相手の顔が良く見えないが困ったように笑っているのが手に取るように分かる。
「……それなら悪いがベッドは直してもらってくれ。俺は汗を流してくる」
「うん。調子は?」
「悪くない」
「そっか」

 良かった。

 今度こそ本当に笑顔を見せた綱吉の額にキスを送って、レバンネはシャワールームへ向かった。


 いやな夢を見た。
 滅多にかからない熱にかかった所為か。
(まいったな)
 忘れようとしても忘れられない。
 全ての記憶を取り戻したとき、同時に忘れたいものまで思い出してしまうのは仕方のないことだ。
 二度とそんな事は起こらないとわかっていても無意識の恐怖がレバンネの身体を冷たくさせた。

(また……動けなくなるかと思った)

 自分がアルコバレーノであったとき、二つの選択を迫られた。
 すなわち。
 アルコバレーノの力の全てを捨てて常人としての時間を過ごすか。
 力にこだわり、その代償を身に受けるか。
 アルコバレーノの”呪い”が解けた時、赤ん坊達は告げられた。この二つに一つ、君たちは選ぶことができるよ、と。

(俺は……)

 シャワー室に飛び散る湯の音が響き、外の気配を全く感じさせない。
 今頃綱吉がメイドの一人を呼び寄せて冷え切ったベッドを直させているはずだ。
 ふう、と一息ついてレバンネはコルクをひねりシャワーを止めた。

 さっぱりと汗を流す。
 肌に這わすタオルの感触が気持ち良い。
 もう考え込むのはやめよう。
 昔のことを夢に見たのは熱にうなされていたからだ。
 部屋に戻れば綱吉が待ってくれている。
 もしかしたら直したてのベッドの上ですでに眠りこけているかもしれない。
「……ありえるな」
 あいつはいつまでもダメツナだからな。
 などと救いようのないことをぽつりと呟き、くすりと笑みを一つもらした。


”死”すら乗り越えて私は貴方の元へ行く。




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虹の呪い編が始まる前に書いたので、原作とはかみ合ってません。
呪いを解いたことでりぼさまは女の子に生まれ変わったというマイ設定。