=おやすみ=








 お前がそうしたいならすればいい。

 俺はツナを信じてるからな。


 彼がそう言ったので、反対していたメンバーも頷かざるを得なくなった。
 俺自身、そんな風に面と向かって言われたのは初めてで、少なからず動揺してしまったけれど。
「リボーン?」
「なんだ?」
「……ううん、なんでもない」
 リボーンが我が家に来てすでに10年は過ぎていたが、初めて出会ったときと全く変わらない赤ん坊の姿で、それでもニヒルに笑ってみせる。
「お前はいつまで経ってもダメツナだからな」
「全然話の脈絡ないし!!」

 彼が笑っていた。
 それに救われた。


 だから、失ったときの痛手は大きかった。


『リボーン……』
『なに情けない顔してんだ……ツナ』
『だって……』
『お前は……ボンゴレ10代目に……なる男だぞ……そんなしけた顔……見せるな』
『だって、リボーン!』

 俺は後悔してないぞ。

 こいこいと手招きするから顔を近づけたら、リボーンが俺の頭をなでてくれた。
 どうしてそんなに優しくするんだよ。
 今にも死にそうなのはお前なんだぞ。
 それでも泣いていい状況じゃなかったから、必死で涙がこぼれるのを抑えた。
 ただ出来ることを今はするしかない。

 だって、ボンゴレリングはもうこの世にないんだから―――。

『悪いが俺は先に逝くぞ』

 俺はツナを信じてるからな。

 もう動かない。

 もう話せない。

 彼を救う術はなく、ただ目の前で消え逝く命。

「リボーン……」

 ごめん、ごめんね、リボーン。

 布石はすでに打ってあるのに、君の死には間に合わなかった。



「お止め下さい、十代目!! こんなのは罠に決まってます!」
「そうだぜ。せめて影にクロームだけでも」
「いや、俺一人で行く」
 ボンゴレ本部が敵の手に落ち、今後の打開策を打つべく会談の場を持つ事になった。  俺が一人で出席するという条件付で。
 誰もがこれは罠だと感じていた。
 当然、俺自身も確信があった。
 ボンゴレの血が、警鐘を鳴らすと共に、これ以外に取るべき方法がない事も告げてくる。
 行かなければいけないのだ。
「大丈夫さ。俺はちゃんと帰ってくるよ」
 みんながいるこの場所に帰ってくるから。そう心から笑えた事に、一番驚いていたのは紛れもなく自分自身だ。

 ここにはもう彼はいないのに。
 どうしてこんなに落ち着いてるんだろう。
 向かう先は死の巣窟。
 鳴り響く警鐘は更に大きく響かせて。
 けれども俺に迷いはない。

 布石はすでに打った。
 もうすぐやってくる、時を越えて俺たちのただ一つの”希望”が。


 重厚な扉が開かれる。
 目の前に見えたのは敵のボスと、手にした拳銃。
「ようこそ。ずっと会いたかったよ」
 そしてさよなら。
 残酷な笑みが引き金を引く。

 俺はそれに安堵し、心からの笑みを返した。

 目の前が真っ暗になる寸前、不可解なものを見たような、敵の憮然とした表情がそこにあった。

 ねえ、リボーン。
 すぐにお前のところにいくよ。
 きっと『ダメツナめ』て、また怒られるんだろうけど。


 やっぱり、お前がこの世にいないって言うのは、ちょっと俺にはきつかったな。


 もう一つの未来を、幼き同志に託して、

 今ひと時は、安寧の暗闇に眠ろう―――。




**********

いやもう原作がどうしようもなくなっちゃって、だって二人ともいないんですよ。
りぼたんも死んじゃって、会談に出席して殺されたって言うのもきっとツナだよな、と思って書いてみました。実はこれで殺されたのが違う人間だったら、このSSは即効ボツです(笑)
しかもりぼたんがどうやって死んでしまったのかも不明……だから先に書いたもの勝ちってことで☆




『このダメツナが。なんでお前がここにいるんだ?』
『えへへっ』
『笑ってごまかしてんじゃねぇぞ。ファミリーはどうした?』
『昔の俺に任せてきちゃった』
『ふーん、ツナの割には考えたな。10年バズーカか』
『なんか言い方にとげを感じるけど、まあいいや』
『ごまかしてんじゃねぇぞ。それとお前が”ここ”に来る理由にはならねぇだろ』
『いいじゃないか、そんなの。こればっかりはもうどうにもならないんだし』
『ツナ』
『良いことにしといてよ。せっかく、久しぶりに会えたのに』
『やっぱりお前はダメツナだな』
『信じてくれてたんでしょ』

 今でも信じてるぞ。

『……うん』

 だから、おやすみ。