|
=これだけは譲れない=
レバンネがイタリアへと渡ってきて早1年が経とうとしていた。もともと勝手知ったるお国である。言語も分かるし、生活習慣も熟知している。それで困る事など何もない。 ように思えたのだが――。 「ツナ……」 「わっ、レバンネ!」 確かこの部屋のドアが開くような音はしなかったはずだ。 邸にある執務室にて、本日も山のような書類に追われていた綱吉は、目の前に突如現れた少女の顔に驚いて椅子ごと後ずさった。 何やら偉く辛気臭い顔をしている。 「えーと、どうしたの、レバンネ?」 「ツナ、頼みがある」 少女の顔が無表情に見えるのは、実は困惑しているからだ。相変わらず感情表現だけは無意識のうちに隠しているようだ。綱吉だから分かる微妙な感覚。 「どうしたの? また植木屋の息子にからかわれた? 警備の人たちに通せんぼされちゃったの? それともまたビアンキたちに着せ替え人形させられたとか」 「お前は俺をなんだと思ってるんだ……」 先程の困惑から一変して怒り心頭のレバンネに、いいえ何でもないです! と慌てて両手を大袈裟に振り、今の発言が冗談である事を強くアピールする。 「俺が言いたいのはそんな事じゃない」 「えーと、で?」 机にひじを突いて前かがみに尋ねるツナに、レバンネは「米を食べさせてくれ」と言ってきた。 「は、米?」 「ここの料理が不味いって言ってるわけじゃないぞ。ただ無性に日本の米が食べたくなるときがあるんだ」 あー、それって凄い分かるなぁ、などとうんうん頷く綱吉である。 何故かと聞かれればそれが習慣だからとしか言えないだろう。 例えどんなにパン食になれようが、パスタ料理を好きだといおうが、結局日本人が辿り着くところは米である。 リボーンであればそこには全く問題はなかった。 だがレバンネは別だ。彼女は生まれて約12年を日本で過ごした。それこそ主食を米で過ごしてきたのだ。 「やっぱ白米が食べたくなるんだよねぇ」 「食べたいぞ」 レバンネの目は真剣である。その気持ちも痛いほど分かる。 よし、と綱吉は傍にあった携帯電話でどこかにかけ始めた。 「ツナ?」 「ちょっと待ってね……ああ、コロネロ? お疲れ様」 どうしたんだコラ、とあの威勢のいい声が機体からもれてレバンネの耳にも届いた。 「今確か日本だったよね……うん……あ、そうなんだ。じゃあ丁度良いや。ちょっとお願いして……」 なんだか展開が思わぬほうに流れているみたいだぞ。 「……ツナ?」 「良かった! 今コロネロがね、丁度笹川邸に来てるんだって。だから京子ちゃんが作った”おにぎり”持って帰ってってお願いしておいた」 「ばっ……どうやって持って帰らすんだ」 「冷凍すれば大丈夫でしょ?」 コロネロだったらできると思うよ。 ニコニコしながらとんでもない事をさらりと言うようになった綱吉に、多少年の差を感じてしまったレバンネである。 (俺もまだまだだな……) そして二日後、綱吉はとんでもないしっぺ返しを喰らう。 執務もきりの良いところで一旦中断し、休んでいるところにあられもない音が響いた。 外から現れた塊にバルコニーへ続くガラス扉が粉砕されてしまったではないか。 「ああああっ、窓ガラスが――!!」 「ゲンキニシテタカコラ」 顔は笑っているのに目が笑っていない迷彩服の男は、ドンと綱吉の目の前にボックスを下ろした。 「な、なにこれ」 「なにじゃねえぞコラ。京子に頼んで作ってもらったおにぎりだぞコラ!」 わっ、本当に持って帰ってきたんだ。などと内心思っていたことはコロネロには内緒である。 急ぎ京子にお礼のメールを送り、レバンネを執務室に呼んだ。 呼んで2、3分も経たないうちに扉の向こうから姿を見せたレバンネを、コロネロは軽く抱き上げる。 「元気にしてたかコラ」 「お前もいい加減に俺をガキ扱いするなよ」 「はっ。言ってんじゃねえぞコラ。俺たちから見りゃてめえは十分ガキんちょだ」 「……いつか締める」 和やかなのか、おどろおどろしいのか、よく分からない状況だがとりあえずはその場にいる皆で京子のおにぎりをいただくことにした。 相変わらず表情の薄いレバンネだが、それでも食べている様子がとても嬉しそうなので、綱吉もコロネロも先程の剣呑な空気はどこへやら。二人視線を合わせると忍び笑いを漏らす。 どれだけ時間がたって色んなものが変わっても、ある意味”リボーン”が最強である事に変わりはないらしい。 ********** 親バカ?(笑) 元ネタは友人の海外旅行でのお話を聞いて。 どんなに地元のご飯が美味しくても、やはり最後は米が食べたくなるそうです☆ 戻 |