=好き=








 ここは地中海に浮かぶ島、シチリア島。
 今日は綱吉の右腕である獄寺の結婚式が行われた。
 ファミリー揃って派手にやろうと皆で言ったがそんなことしている時間は有りませんと本人からお断りが入り、結局よく知る町の中の教会で静かに行われる事になったのである。
 無事に式も終わり、新郎新婦はそのまま新居へと向かって車を出したところだ。
 運転は今回山本が勤めている。
 じゃあツナ、先にコイツんち見てくるわ、などと言って乗り込む山本に獄寺は嫌そうな顔を見せるのも全く持っていつもの事。
「隼人もほんと、恥かしがりやなんだよなー」
「……そうだったか?」
「あんまり皆に奥さん見られたくないんだよね」
 写真見せてもらってたけど本当に美人さんだったね、と隣に立つ我が生徒は心底嬉しそうだった。
 リボーンはよく分からないと思った。
 結婚とは両者が共にその後の人生を歩んでいく事を誓い合う儀式であり、それは自分には全く必要としないものだと思っている。
 だってそうだろう。ヒットマンが帰る場所を作るだなんて。
 自分は誰にも心を預けない。預けてはいけない。それでは覚悟がいつか揺らぐだろうから……。
「ねえ、リボーン」
 頭一つ分、自分よりも低い彼はにっこりと笑ってとんでもない事を口にした。
「俺たちも一生の誓いってやつを立ててみない?」
「は?」
 どうやら自分は気持ちをそのまま顔に出してしまったようだ。普段が無表情なため、周囲にいたファミリー達が珍しいものを見るように目を丸くしてこちらを見ている。
 こいつら後でシメル、としっかりそれぞれの顔を記憶して、綱吉にいきなりなんだと尋ねた。
「えー、なんていうか、隼人のを見てたら良いなあって思っちゃって」
「なんだ、ごっこか。それなら愛人がいくらでもいるだろ?」
「愛人さんは愛人さん。一生の誓いなんて立てれないよ」
「随分冷たいな」
「割り切らなきゃ、相手にも申し訳ないでしょ」
「……そりゃそうだ」
 それでなんで俺に言う、と再び尋ねれば、リボーンが良いのだという。
「俺がそろそろ身を固めなきゃいけないのは本当だし、ちゃんと頭でも分かってるけど」

 それでも想いだけは、リボーン唯一人にあげたいから。

 今度は開いた口が塞がらなかった。
「……おい、つな……」
「あ、ちょっと車に移動しようよ」
 多少思考回路がストップしてしまったリボーンは腕を引かれるまま二人でリムジンに乗り込む。
 ドアを閉め、外の音も聞こえなくなり、運転手もまだ戻ってきていない。
 完全に二人きり。
「ね、いいでしょ?」
 やはり話は戻るのか。
「だからどうして俺なんだ……」
「それって、”どうしてリボーンを好きになったのか”っていう質問なの?」
「……っ」
「……あれ?」
「…………」
「俺もしかして、ちゃんとリボーンに俺の気持ち伝えてない?」
「……何の話だかさっぱりだ」
 ていうかいい加減手を離せと自分の腕を掴みっぱなしだった綱吉を手を外す。
 すると綱吉はそのままリボーンの掴んできた手を握りしめた。

「ねえ、リボーン」

「ずっと俺の傍にいてよ」

 真っ直ぐに琥珀色の瞳が死神の心を射抜く。
 ああ、なんて残酷な人なんだろう。
 常に死と隣り合わせな自分に、これ以上人の心を取り戻させないで欲しい。

『愛』なんて、この世に未練を残させるだけだ。

「綱吉……」
「何があっても、俺にはリボーンしかいないから」
 ちゃんと覚えていてね。
 幸せそうに彼が笑うから、掴まれた手を振りほどく事ができなかった。


 綱吉のこの時の誓いをリボーンが実感するのはもっと後のことになる。
「愛してるよ、レバンネ」
「上等だ、ダメツナ」

 想いが奇跡を起こす日はそう遠くない日の事―――。








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近々身内で結婚式と思ったらこのネタに。
イタリア式の結婚式ってよく分からないので、細かいところは無視してください。お願いします☆