=日溜り=








 彼女がイタリアに帰ってきたのは離れて12年目の時だった。ちょうど一週間前に綱吉のバースディが終わり、その時の騒動がようやく落ち着きを見せ始めた頃、里親を引き受けてくれた女性も同伴でこの屋敷に訪れた。
『ゴメンね、ツナ君』
 どうしてもツナ君の傍に居たいんだって。
 ね、リボーンちゃん。
 こくりと少女が頷く。

 ああ、今の心境をどう表現したら良いんだろう。憧れだった同窓生が今目の前にいる嬉しさと、あの時赤子だった彼女がここまで成長したのだという感動と、どうしてここに帰ってきてしまったのかという憂いとが、ごちゃまぜになって綱吉の表情を固まらせた。
 なのに彼女はこちらの心の内を的確に読んでくる。
『そんなに悩む事はねーぞ、ツナ』
 可愛らしい顔をして、可愛らしい声をしているのに、記憶と寸分たがわぬ口調を耳にして、とうとう綱吉は脱力した。
『リボーン・・・』
『俺はこれで結構人生楽しんでるんだ』
 俺だけ仲間はずれにしようなんて百年早ぇぞ、ダメツナが。
 胸にかかる漆黒の髪に、黒が基調のエプロンドレス。夜のごとき双眸でこちらを見つめる少女の笑みは、まごうことなきあの家庭教師のものだった。


「あれからもう5年かぁ」
「言い方がじじくせぇぞ、ダメツナ」
 屋敷の執務室にて書類を相手に格闘していた綱吉は、ふと眼前のソファに座る少女に眼を向けると無意識に呟いていたようだ。きちんと綱吉の言葉尻を拾って彼女は「ダメツナ」と言い返す。
「だってあれからすごい勢いで成長したじゃない」
「前の時はもっと高かったぞ」
「それは”男”だった時の話でしょ」
 これ以上キミの背が伸びちゃったら、俺の立つ瀬がないよ。
 本当に困ったようにため息をつく綱吉を見て、心底面白いという様に少女は笑った。
「超えたらどうする?」
「ん〜〜」
 また一緒にお買い物行こうね。
 あまり考える時間もなく帰ってきた答えに、一瞬すっとんきょうな顔を見せた少女は今度は声に出して笑った。
「あっはっは。それなら店を決めておくか。ツナはあまり時間がないからな」
「それって超えること前提なの!?」
「当たり前だぞ、ダメツナ」
 俺を誰だと思ってんだ。
 しれっと言い放つ少女の言葉に綱吉は思わず苦笑した。
 昼食後ずっと座りっぱなしだったオフィスチェアから立ち上がると少女の横に腰を下ろす。
「なんだ?」
「ちょっと休憩させて」
 言うなり綱吉は自分の頭を少女の腿に乗せる形で横になった。
「おい、スーツに皺が入る」
「だいじょおぶだって」
「書類は良いのか?」
「ちょっとだけ・・・」
 すうっと何秒もしないうちに綱吉の寝息が聞こえてきた。
 ふわりと彼の梳いてみる。さらりと触れる髪の感触がこそばゆい。
 本当に気持ち良さそうに相手が眠るから、それにつられてレバンネもソファの背に身を預ける事にした。

「あれ?」
 報告に訪れた雲雀が執務室に入ると、中央に置かれた対のソファの片方で、部屋の主が気持ちよさげに眠っているではないか。しかもあの”虹の子供”の膝枕で。
 これはいいものを見たとケータイで写真を撮って保存しておく事にした。
 後日それを知った本人たちから、頼むから消してくれと懇願されるのはまた別の話である。




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若干説明☆
・今のりぼたんは原作りぼたんの生まれ変わりと思ってもらって良いです。
・レバンネ17歳。ツナはおそらく30代(適当)
・守護者達も全員イタリア入りしてます。そして嵐と太陽と雷は既婚者。それ以外はツナも含めて独身です☆