=独占欲=








標的157より捏造☆





 ここはボンゴレファミリー日本支部の拠点にある執務室。もうすぐ23歳の誕生日を迎える綱吉は今日も朝から仕事に追われていた。本日のサポートには獄寺と山本の二人。昼食もきちんととって午後からの仕事と言うのは少々追われる感が強いと綱吉はふと思う。
 机に山積みされた決済待ちの書類は綱吉の顔の横で静かに端座しているのだが、これを全部さばけるのは一体いつのことやらとやや逃げ腰なのは許してあげるべきだろう。最初の頃に比べれば随分と仕事もこなせるようになってきているのだ。まあ、忙しいほどに仕事が舞い込んでくると言うことはそれだけ己が必要とされていることの表れでもある。
 今日も諦めて決済印を押印すべく、一枚一枚を手にとっては決済済み専用のボックスへと放り込んでいた。

 部屋のサイドに立てられた振り子式の大時計の針がちょうどL字型をさした時、ドアをノックする音が聞こえた。
 お茶の時間だと言いながら部屋に入ってきたのは”呪い”が解けて綱吉の身長よりも10センチ以上は高くなってしまった家庭教師、リボーンである。漆黒のスーツはいつでも家庭教師の存在感を強くさせていた。一瞬の引き金が命を奪う、世界屈指のヒットマンの後ろからついて入った給仕に引かれてきたワゴンの上には、菓子類とほんのり鼻をくすぐる入れたてのカプチーノの注がれたカップが並ぶ。
 うまそうっ、と最初に反応したのはやはり山本で、それに対して「おい」とにらみを利かせるのも獄寺の日常であり、そんな二人のやりとりに苦笑を漏らすのが綱吉の日課になっていた。

 ソファに腰を下ろし軽くケーキを平らげ、お腹を十分に満たした4人の雑談の中でそれはひょんなことから話題に上がった。
 10年前、繰り広げた死闘。しかしそれは時を越えてのものであり、正確に言うならば今年がそうなるはずであった”現在”。
「なんていうか、あの時の話になると一番ややこしいのが時間なんだよね」
「そうですね。昔であって未来であって今のことですから」
 わおっ、本当に変なの!
 お手上げのポーズでおどけて見せる綱吉。
 執務室にくすりと笑みが溢れる。
「あん時は常に死ぬ気だったよなー」
「本当ですね。でもあの一件があって俺自身は強くしてもらいました」
「それは俺もだな」
「まあここにいるってことはあの死闘を乗り越えれたって事だからな。強くなってて当然だぞ」
 リボーンの発言に獄寺と山本は頷いた。
 だがそれまで和やかだったムードも次の山本の発言で一変する。
「俺もあの時はまさか本物の小僧が見れるとは思ってなかったしよ」



 ……おや?

 なんだろう。急に空気が重くなったような気がする。
 重いというのか、耳を圧迫するような静けさというのが時折あるのだが、今がまさにそれで。
 俺なんか今言ったっけ? と首をかしげながらリボーン、獄寺、綱吉と視線を移せば、リボーンはそ知らぬ顔、獄寺はこのバカがと目で訴えてくるし、綱吉に関しては……。
(あれ、俺もしかして地雷踏んだ?)
 こちらを見てもいないのに、伝わってくるオーラがかなり痛い。カップを持つ手が宙で止まっている事を綱吉自身はちゃんと分かっているだろうか。
 さて、と妙に改まって背筋を直した獄寺は、それでは仕事の続きをと済み印の押された書類を手にして部屋を出て行く。綱吉はこちらを見ない。微動だにしない。
(……あー、そうか)
 ようやく状況を理解した山本は、そんじゃ、と何事も無かったといわんばかりにすいっと退室してしまった。


「……ったく、何時まで拗ねてんだ、ダメツナ」
「…………」
「何時からそんなに甘えん坊になったんだ? あ?」
「拗ねてなんかないよ」
 おや、ちゃんと聞いていたらしい。多少感心した家庭教師はしかして生徒の表情を読み取ると内心ため息を漏らした。
 リボーンの横に座る綱吉の目は確実に据わっている。
「……ツナ」
「今俺がどんな気分なのか、リボーンにはどうせバレバレなんだろ?」
「だからってわざわざ読ますかよ」
「口にするのも嫌なんだ」
 それだけで気分が降下する。
 なんて事まで無言で訴えてくるか、この生徒は。
「何でもかんでも自分が特別だなんて思うなよ」
「思ってないよ」
「思ってたから機嫌が悪くなって拗ねるんだろ」
「思ってない」
「嘘付け」
「自分が特別だなんて思ってない」
 でも誰よりも独占欲が強いのは認めるよ。

 えっ、と驚いてヒットマンは軽く目を見開く。
「……独占欲?」
 誰に対してと聞くのはちょっと怖いなと思うリボーンだったが、きっと聞かなければ綱吉の不機嫌の理由は永久にお蔵入りだろう。
「えーと、それは誰に対する……」
「わざと言ってるの、リボーン」
「あえて読めないようにしてんのはお前だろ、ツナ」
 そう、最近の綱吉はリボーンでさえ読めない表情をするようになった。これこそ10年の修行の賜物だろうと思うのだが、今はそんな生徒の態度が恨めしい。
「当たり前じゃない」
 皆にばれちゃったら恥かしすぎて外にも出れないよ。
 なんて軽口を叩く綱吉はふうと一つ息を漏らした。
「あのね、俺が昔から今でも変わらず持ってる欲なんて数えるくらいしかないんだよ」
「……もしかして」

 山本に”本当の自分”を見せたことに腹立てているのか?
 尋ねるリボーンに、それはちょっと違うと綱吉は答える。
「見せた事にじゃなくて、一番に見たのが山本だったのが悔しいの」
「は?」
 これにはリボーンも目を丸くした。
「おまっ……なんでそんなお子様な事言ってくるんだ!」
「仕方ないだろ! 俺だって全然知らなかったこといきなり聞かされて心の準備ってものが出来てないんだから!」
「そういう問題かよ!」
「いいじゃない!」
 言うなり綱吉の両腕がリボーンを捉える。
「おいこらっ……んんっ」
 問答無用に重ねられた唇が、強くリボーンを求めて離そうとはしない。
「っ……ツナ……ふっ」
 室内であっても外すことのないカペッロを床に落とされて、口内を侵食されつつも胸の内で毒づくことは忘れない。
(この馬鹿が……)
 ソファに寝かされる形で押されてしまったリボーンは、しょうがないな、と己の両手を綱吉の首に回した。

 だって、本当に仕方がない。
 自分の知らない教師の一面をすでに友人が知っていたことに、ここまで衝撃を受けるとは、正直綱吉も予想していなかった。
 へえそんな事があったんだ、と笑って過ごせばいいのに、一片の余裕すら自分には無かったのだ。
 彼が自分だけのものになるなんて思ってない。自分が彼にとっても唯一になるなんて叶わぬ願いである事は知っているから。


「リボーン……」

 自分だけを見て、とはまだ言えなくて。

「リボーン」

 それでも全てを欲しがる想いは止められないから。

 今このときだけは己だけを見て欲しいと、心から願ってはいけないのだろうか。

「綱吉」
 ふと呼ばれた名に顔を上げる。
「綱吉……」
 どうしてそんなに遠い目をするんだろう。
 ちゃんと目を合わせているのに時おりそんな表情を見せるから、綱吉はどうしようもない焦燥感に眩暈を覚える。
 いつか自分の下を去ってしまうのではないだろうか。そんな不安が気付けば随分と前からしこりとなって綱吉の胸の底に凝っていて。
 その凝った箇所から体温を奪われていく錯覚に、綱吉はどうしようもない寒さを覚えるのだ。
 だからだろうか。頬に添えられた手がとても温かい。
 もう一度己の名を呼んでリボーンのほうから抱きついてきたので、同じように綱吉も抱き返した。
 触れるところから互いの熱が伝わる。
 このままリボーンの中に溶けてしまえばいい。
 叶わぬ想いは、きっと唇から伝染していく。



 どうかどうか彼の呼ぶ名に、己だけに持つ情欲を見出したい。







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ブログにUPした内容から随分と書き直しました。
山リボなんかも好きなんですけど、原作見てまさかこんなに悔しいと思うなんて、自分に対して予想外だったらしいです。
なんか恋人未満らしい二人に不完全燃焼。