=おはよう=








 何気ない日常。
 何気ない始まり。
 差し込む光を世界の祝福と感じられるのは、きっと『貴方』が傍に居るから。




 ベランダの幅一杯に取られたガラス窓から、容赦なく日の光が注ぎ込む。
 その眩しさの為エドワードが目を覚ました時には、すでに隣にいるべき人はいなかった。
 大方朝食の準備にいそしんでいるのだろう。次こそは先に、と思うのだが、なぜかいつも自分の方が遅い。


 む〜。


 膨れっ面で隣りの部屋に続くドアを睨むと、エドワードはベッドから身を起こした。がしがしと後頭部を掻きながら寝室を後にする。
「大佐ぁ…」
 部屋を出れば、すぐそこはリビングだ。その奥のキッチンにいるであろう人物を呼ぶ。
 おはよう、鋼の。と彼の声が卵を焼く音と重なって聞こえて来た。

「なんだよ大佐。今日は俺が作ってやるって言っただろ」
 頬を膨らませながらこちらを覗き込んできたエドワードに、ロイはただ苦笑を返した。
「そうは言っても、鋼の。君があんまりにも幸せそうに寝ているので、起こすに起こせなかったんだよ」
「それとこれとは話が別だろ!
 だいたい大佐は俺の事甘やかしすぎなんだよ」
「そうだろうか?」
「そうだよ」



 いつもして貰ってるばっかりで、俺はなんにもしてないだろ。

 ブツブツと文句をこぼすエドワードは、ロイの背後にある食器棚から必要な枚数だけ、皿を取り出し始める。
 一瞬言われていることの真意が信じられなくて呆然としたロイは、次の瞬間には朝一番の最高の笑顔を小さな恋人に向けていた。
 エドワードはというとこちらに背を見せたままで、その貴重な一瞬に気付いても居ない。
 それでもロイは嬉しい気持ちを抑え切れなくて、鼻唄まで歌いだした。

「貰っているのは私も同じなのだがね」

 しかし、呟いたロイの言葉はフライパンから溢れる炒め物の音に遮られて、エドワードには届いていない。
「なんか言った? 大佐」
「いや、何でもないよ」

 ロイはふと思い出したように後ろを振り返った。

 そういえば朝の挨拶がまだだったね、鋼の。

 言われてエドワードも、後方へと顔を振り向かせる。
 視界に捉えたそこには、憎たらしいほどに皮肉な笑みの似合った青年の漆黒の双眸。
 いつもこの瞳に捕まって、どこにも逃げられなくなる。離れられなくなるのだ。

 大好きな彼の視線が、今は自分だけの為にある。

 自分と彼の顔の距離が縮まっていくけれど、エドワードは動かない。
 鼻先が触れ、唇が重なった。
 互いに目を閉じて触れるだけのキスを楽しむ。

 そうして二人の新しい一日がまた始まる。



「おはよう、エドワード」







fin.


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ああ、なんて幸せそうな二人☆
なんかベタなネタでスミマセンでした(土下座)
大佐の料理って、きっと美味しいんだけどあくまで男料理だな、と思ってます。
たぶんエドも似た感じ(笑)



2009.5.10