=我が家の事情=
《未来設定》
大学での穏やかなひと時。
同じ講義を受ける中で出来た友人数名と、食事をしながらの会話の中で。
なぜか刹那の同居人の話になった。
「ねえ、刹那のとこの同居人ってみんなカッコいいよねっ」
最初に切り出したのはマーナというイギリス系の女の子だ。大学に編入して一番最初に声をかけてくれた彼女が、ブロンドに薄い水色の瞳、人懐こそうな幼顔をこちらに向けて話題を振ってくる。
「同居人……会った事あったか?」
「あるじゃない。私刹那が休んだときの講義のノート届けたでしょ。ほらあ、ディーも見たでしょ」
「ああ、見たぜ。俺には興味ないけどな」
不機嫌な声音で明らかに嫉妬心を見せる彼、デイビスはマーナの恋人だ。
なるほど、彼ら二人が家に訪れた事が一度あった。そう言われてみると確かにあの時はマイスター全員が揃ってて、自分が風邪で動けないのを良いことに「刹那の友達ってどんなやつなんだ!?」と興味津々でお出迎えしてくれたらしい。
(なんだか俺って子ども扱いされてるな)
というよりも同居人たちのほうが父母のようだとはまでは流石に刹那も突っ込みはしない。
「セツナがよく話にする"ティア"って誰の事?」
「メガネをかけた奴がいただろう」
「ああ、分かる! 覚えてるわよ、すっごい美人さんだったもの! ねえ」
「うん、"彼女"なら覚えてる」
答えるディーの発言に、おや、と内心首をかしげた刹那だが、訂正するのも面倒な気がしたのであえて注意する事はしない。
「ねえねえ、どんな人なの?」
どうして人はこんなに他人のことに興味が持てるんだろう。
「聞いてどうする」
「えー、どうもしないけど、でもあの人がセツナの好きな人なんでしょう?」
「…………ええと……どうして分かるんだ」
「やだっ、分かるに決まってるじゃない。いっつも貴方の口から彼女の名前が出てるのよ」
そんなに"彼"の事を話していただろうか。まったく無意識で話していたのであれば、かなり惚れこんでいると言う事にならないか。
ティエリアとともに過ごす時間がそれほどに当たり前になっている。
「どんな人といわれると……たいてい無口で」
無表情。
マイペース。
辛辣。
我侭。
意外と短気。
結構俺様的で。
「それから――」
「なんだよ良いとこ全然出てこねえじゃん」
デイビスが呆れたように言った。
良いところとは。
「――あったかい」
「どんな風に?」
抱きしめてくれる腕。
辛辣な言葉に隠された感情。
自分を見つめる紅玉の瞳。
時おり見せる笑顔。
「あいつが俺の名前を呼ぶたびに生きてるんだって思えるんだ」
「お前本当に彼女に惚れてんだなぁ」
「ああ」
感情には気付いていた。
けれどそれが何と言うものなのか暫くは分かりもせず持て余して。
『好き』という言葉がしっくり来るのだと気付いたときには本当に嬉しかった。
「好きだな」
今日は少しだけ"彼"に甘えてみようか。
帰れば迎えてくれるはずのその人の顔を思い浮かべつつ、友人達との他愛無い会話で休憩時間は終わりを告げた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
あれ、おかしいな。
「アレルヤ」
「やあ、刹那。おかえり」
今日の食事当番とは違う人間がキッチンに立っている。
久しぶりに嗅ぐ香辛料の匂いに、すぐさま麻婆豆腐だと分かった。
「今日は中華?」
「そうだよ。マーボーにホイコーローにチャーハンと」
「杏仁豆腐は?」
「もちろんつけるよ」
「……ところでティエリアは?」
いかんいかん、普通に会話をしてしまった。どうも彼と話すとペースが持っていかれてしまう。これがもう一人の彼ならば、力越しにモノを言ってくるときがあるので少々疲れる時がある。
遅ればせながら本題に入ると、アレルヤも「ああ」と相槌を打って出かけたんだよと告げられた。
「出た? もう外も真っ暗なのに?」
珍しい事もあるものだ。外出したことがではなく、当番が自分であれば絶対にやろうとする人間がまさか他の人間に任せて出かけるとは。
「なんでも依頼人と揉めたみたいで」
「仕事の?」
「うん。請求書がどうのこうのと言って出て行ったのが……あ、帰って来た」
玄関の呼び鈴を鳴らす音がする。
通路へと続く扉の横に設置してあるテレビに、玄関の前で立ち尽くす当の本人の姿が見えた。
なんでわざわざと口にしながら、刹那は玄関へと向かった。
「どうしたんだ、ティエリア。鍵は?」
「…………忘れてきた」
誰がどう見ても不機嫌な彼の顔。
二三度瞬きをして、ぎゅっとティエリアを抱きしめる。
「おい、刹那」
外から見えると窘められるが、さらりと聞き流すことにした。
「お疲れ様」
仕事だったんだろ。と言ってやれば腕の中の人もこくりとうなずいた。
「今日はアレルヤの手料理だ」
「彼には申し訳ないことをした」
「じゃあ明日は奮発してくれ」
「分かったよ」
大変だったね。
ここが君の帰る家。
それだけを伝えたくて刹那は腕に力を込めた。
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どうして刹ティエが好きなんだろうと、実は自己分析☆
全部を含めて好きだといえるならそれは本物だと思う。
2010.9.23
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